特定の音を不快に感じるのはなぜ?もしかして聴覚過敏?

聞こえてくる音や声が不快に感じたり、騒々しいと感じる経験はありませんか?黒板をひっかく音やフォークで皿をひっかく音等、想像するだけで不快だと多くの人が感じる音があります。
また、他の人が十分我慢できる音に対しても、不快感やストレス、苦痛を感じる「聴覚過敏」の症状を持つ人もいます。なぜそのようなことが起こるのでしょうか。耳とどう関係しているのでしょうか。

多くの人が不快に感じる音

●特定の音域の甲高い音

発泡スチロール同士をこする音や、スニーカーのキュッという音、ブレーキのキーキーと鳴る音等の甲高い音に対して、私たち人間の耳は特に敏感に反応するものです。1986年の脳神経学者の研究では、嫌な音には共通点があり、2,000~5,000Hzの周波数帯にあることが明らかになりました。

また、MRIを利用した2012年のニューキャッスル大学の研究では、不快な音に反応する脳の部位が特定され、「聴覚皮質と扁桃体」の間に強い関係性があることがわかりました。扁桃体は、脳内の「情動の中心地」として知られ、特に不安や恐怖が生じた際に活動しています。不快な音を聴くと、扁桃体が聴覚皮質の反応に影響を与え、私たちの感情をセンシティブにし、ネガティブな感情を引き起こす可能性があるようです。

しかしその敏感さがどこから来るのかについては、いまだに議論されています。このような音は危険を伴う音として、遠い祖先が持っていた反射行動の名残ではないかと考える学者もいます。不快な音への反応は、遺伝子に刷り込まれた記憶かもしれませんね。

●大きい音「騒音」

「騒音」は文字通り、人が聞いて「騒々しい」「不快だ」と感じる音のことです。85dBを超える音環境に長時間にいると、耳の中にある音を感じ取る「有毛細胞」に損傷が起きる可能性があります。すると、めまい、耳の痛み、耳鳴りや聞こえの低下等の症状が現れます。
大きな音がするときは、耳へのダメージを避けるため、その場所を離れたり、音量を下げたりして、聴覚を保護する必要があります。
大きい音を「不快な音」として感じることで、私たちは無意識のうちに耳を守っているのかもしれませんね。

耳を痛める騒音についてはこちら

聴覚過敏とは

また、多くの人にとっては気にならない音なのに、それが耐えられないほど不快に感じる人は、「聴覚過敏」の可能性があります。
はっきりとした定義はありませんが、「聴覚過敏」はその名の通り、聴覚(音を感じる感覚)が過剰に敏感になっているということです。日常の環境音などが過度に大きく聞こえたり、耳の奥が痛くなったり、頭痛やめまいなどを伴うこともあります。
「聴覚」に限らず、他の感覚過敏も存在します。(視覚過敏、触覚過敏、味覚過敏、嗅覚過敏)

聴覚過敏の場合、人の話し声、家電の音、音楽、小さいノイズ等、様々な音に対して敏感になります。個人によって苦手な音、症状や度合いもさまざまです。



さらに聴覚過敏は、年齢や性別に関わりなく起こる症状です。最新の研究によると、『医学分野では一般に聴覚過敏の罹患率は5〜20%程度』※というデータがあります。私たちが思っている以上に多くの人が、日常の環境でもストレスを感じたり、健康に影響が出たりしていることが分かります。
「聴覚過敏保護用シンボルマーク」もあります。耳を守るためのヘッドフォンに着けられていることもあるので、注意してみてください。また、このマークを見かけたら、その人のためにその場に合った配慮をお願いします。

※発達障害に伴う聴覚過敏と音環境に関する実態調査,松井温子 佐久間哲哉,日本建築学会技術報告集 第 26 巻 第 62 号,169-172,2020 年 2 月 https://www.jstage.jst.go.jp/article/aijt/26/62/26_169/_pdf

 聴覚過敏の原因

聴覚過敏の原因も様々ですが、大きく分類すると「耳」、「脳」、「心」の3つの原因があるといわれています。また原因は一つだけではなく、いくつかが組み合わさっていることもあります。

 ●耳の機能に関するもの:突発性難聴やメニエール病などの感音難聴、顔面神経麻痺による耳小骨筋の反射異常
●脳の機能に関するもの:てんかん、偏頭痛、発達障害等
●心因性:ストレスやうつ病による自律神経の乱れ等

ここでは耳の機能に関わる原因について説明します。

耳の一部である内耳でなにかしらの障害が起こっている場合、聴覚過敏を引き起こすことがあります。音そのものは聞こえにくいのに、特定の音が強く響いたり、不快に感じられたりします。

よくみられるのは、突発性難聴やメニエール病などの難聴が発生した場合です。耳の中の音を感じ取る有毛細胞が一部損傷し、周りの有毛細胞がその機能低下をカバーしようとして異常に反応してしまいます。すると、音が大きく響いたり、割れるように聞こえたりする現象(聴覚補充現象、リクルートメント現象)が発生します。



顔面神経麻痺というと、顔の筋肉が麻痺して表情を作れなくなる症状が一般的ですが、耳にも影響があります。顔の筋肉をつかさどる神経は、耳の中にある小さな3つの骨を動かす筋肉もコントロールしています。3つの骨とは、ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨です。耳の中に入ってきた音は、この3つの骨の振動によって内耳へと伝わります。
通常は音が大きすぎると、「アブミ骨」に和らげられますが、顔面神経がうまく働かない場合、「アブミ骨」がうまく機能しません。音が正しく伝わらなくなり、音が大きく聞こえて響いてしまう聴覚過敏が起こるのです。

聴覚過敏の治療

聴覚過敏そのものの治療法は、まだ確立されていないといわれています。もし聴覚過敏を引き起こしている病気がある場合、まずその病気を治療することになります。原因となる疾患により、受診する診療科が違ってきます。耳の機能にかかわるのであれば耳鼻咽喉科、脳の機能に関するものは神経内科、心因性の場合精神科・心療内科を受診したほうが良いでしょう。

聴覚過敏かもしれない、また聴覚過敏の症状があるがどこを受診すべきかわからないという時は、まずは耳鼻咽喉科に相談してみてください。場合によっては、神経内科や精神科で診療する必要がありますが、聴覚過敏症は、原因を明らかにしてこそ適切な治療を検討できますので、ぜひ早めに対処しましょう。

難聴による聴覚過敏はTRTが有効の場合も

難聴が原因で聴覚過敏が起こった場合は、とにかく早期に難聴の治療を行う必要があります。特に突発性難聴は、早く治療を始めないと、元の聴力に戻れないリスクもありますので、一刻も早く受診してください。

難聴が原因の聴覚過敏の場合は、耳鳴りの治療法として知られているTRT(耳鳴り治療器機能:Tinnitus Retraining Therapy)が有効な場合があります。TRTは耳鳴り治療器を耳に装着して、不快ではない程度のノイズ音を一日一定時間聞き続ける治療法です。耳に音が聞こえている状態に慣れさせて、生活障害を軽減させます。

 シグニア補聴器の多くの製品は、TRTを搭載しています。ですが、聴覚過敏の診断と、治療法の選択は医師が行いますので、とにかくまずは耳鼻科専門医にご相談ください。

シグニア補聴器のTRT機能

 聴覚過敏の症状を緩和するため、耳栓やイヤーマフを使用する人もいますが、耳栓の着用に関しては医師の間でも賛否両論の声があるので注意が必要です。聴覚過敏のつらい症状を緩和するために耳栓を日常的に使用していると、先ほど説明したリクルートメント現象がさらに進行し、ますます音に敏感になって、症状が悪化するという考え方もあるようです。耳栓やイヤーマフを着用する際には、医師に相談したうえで、必要な場面で必要な頻度にとどめて使用すると良いでしょう。

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