周波数と聴力の関係
聴力について説明を受けた経験がある方は、「周波数」という言葉を何となく聞いたことがあるかもしれません。周波数とは何でしょうか。そして聴力との関係は?
周波数とは?
音は空気の振動によって発生します。その振動の速さ(1秒間に振動する回数)を数値で表したものが周波数[Hz](ヘルツ)です。振動がゆっくりな場合、数値が小さく、人間の耳には低い音として聞こえます。振動が速い場合は数値が大きく、高い音として聞こえます。
身近な音の例で説明しますと、NHKラジオでおなじみの時報「プ・プ・プ・ピーン」は「プ」が440Hz、「ピーン」が倍の880Hzと決められています。つまりその時報が鳴ると、1秒でそれぞれ440回と880回空気が振動していて、人間は「プ」の音より振動回数が多い「ピーン」を高く感じます。
ピアノの真ん中の「ド」の音は約1,000Hz、鳥の鳴き声は、2,000~10,000Hzの高い音です。
私たちの身の回りの音
人間の耳で聞くことができるのは、一般に20Hz~20,000Hzの音だと言われています。その範囲は人間の「可聴域」と呼ばれています。
私たちはたくさんの音に囲まれて生活をしていますが、私たちにとって、聞こえてくる音の中で一番重要なのは、人の声ではないでしょうか。一般的な日常会話はだいたい250Hzから4,000Hzの間くらいです。多くの場合、男性の声は女性の声よりも低いですよね。一般的に日常会話で発する声の高さは、男性が500Hz程度、女性が1,000~2,000Hz程度だとされています。
人間がもっとも聞きとりやすいのは、2,000Hz~4,000Hzの音だといわれています。赤ちゃんの泣き声や、女性の悲鳴、家電製品の警告アラームなどの音がこの範囲にあります。一方、人間の耳は音の周波数が低い音には鈍感になる傾向があります。
通常、20,000ヘルツ以上のとても高い音は、健康で良い耳を持っている人でも聞くことができません。それが『超音波』と呼ばれる音です。人間が聞こえない「超音波」でも、様々な動物は聞くことができると言われています。例えばコウモリは超音波の反射で物体の方向と距離をつかんで暗闇での中で飛行しますし、イルカは遠くの仲間との情報交換に超音波を利用しています。イルカが聞き取れる周波数帯は150Hz~150,000Hzだとか。実は人間の7倍以上高い音を聞き取る事が可能なのです。
一方、1Hz~100Hzの低い音のことを「低周波音」、特に人間の耳では聞こえにくい1Hz~20Hzの低い音は「超低周波音」と呼ばれています。例えば、船やトラックのエンジンの音や、波が防波堤で砕ける音、大型建機の音には低周波音が多く含まれます。
人間には聞こえにくいのですが、影響を受けないわけではありません。周囲に低周波音の発生源があると、不快感や圧迫感を感じたり、建物のがたつきが発生したりすることがあり、近年では低周波音の騒音問題が話題になることもあります。
周波数と聴力の関係
人間が聞こえる音はずっと変わらないものではなく、様々な理由で変化します。加齢もその一つ。周波数が高い音から聞きづらくなり、聞こえる周波数の幅(可聴域)が狭くなります。「若者には聞こえるけれど、高齢の方には聞こえない」といわれている「モスキート音」は、17,000 Hz前後のとても高い音ですので、加齢性難聴をお持ちの方は聞き取りにくくなります。
また、日本語の子音、特に摩擦音のS、H、F、K、Tなどは高い周波数にありますので、しろい(白い)とひろい(広い)、たかな(高菜) とさかな( 魚 )のような言葉を聞き間違えることがあります。
なぜ年齢を重ねると高い音から聞こえにくくなるのでしょうか。人間の耳の中には「蝸牛(かぎゅう)」というカタツムリのような形の器官があり、その内側には毛が生えたような「有毛細胞」があります。この有毛細胞が、音の振動を電気信号に変換し、神経から脳へと伝わることによって音が聞こえます。つまり有毛細胞は、音を聞き取るためのかなめの器官になります。
ところが、有毛細胞は長年音を聞き続けることで、少しずつ損傷していきます。特にカタツムリの入り口付近にある有毛細胞は、一番頻繁に音の衝撃を受けるので、早く壊れていってしまいます。入り口付近の有毛細胞は高い音に反応する細胞なので、高い音から聞こえにくくなるのです。また、一度傷ついた有毛細胞は復活しないので、聞こえが改善することも期待できないのです。
聴力検査でわかる、あなたが聞こえる周波数
高い周波数の音が聞こえなくなることは、しばしば加齢性難聴における最初の兆候です。このような聴力変化の特徴を生かして、モスキート音で聞こえの状態を確認する簡易の聴力テストもあります。モスキート音のテストで高い音が聞きづらいという自覚症状があった場合、耳鼻科などで聴力検査を受けることをお勧めします。
聴力検査(測定)は、静かな環境(防音室など)でヘッドフォンを装着し、「オージオメーター」という機械から出たいろいろな音を聞きます。音が聞こえてきたらボタンを押したりして、測定しているスタッフにお知らせします。聴力検査では、さまざまな高さの音を、様々な音量で聞きます。すると、音の高さごとに、聞き取ることができた最小の音量がわかります。
聴力検査の結果は上記のような「オージオグラム」(聴力図)というグラフに記されます。線は現在の聴力を表し、線より下の部分、図の中の青いエリアは聞こえる音、つまり「可聴域」です。そして線より上の部分の白いエリアは聞こえない音です。黄色エリアは人間の会話でよく使われる音の範囲なので、聴力の線がそれより大きく落ちたら、日常会話に支障をきたすぐらい難聴が進んでいるということになります。
このように、音の周波数は私たちの聴力と密接にかかわっています。壊れてしまった有毛細胞は再生できないため、加齢性難聴の根治は困難だと言われます。ですが、聴力を補うためのいろいろな対処方法があります。補聴器の装用もそのうちの一つです。聞こえに不安がある方、ぜひ一度耳鼻咽喉科を受診して、医者と一緒に対処方法を検討してみましょう。